キリスト教においては、「死」というものが神のみもとに帰り、永遠のいのちにあずかるということですから、亡くなった人の魂が永遠に安らかに憩うように祈りをささげることをかねてから教えてきました。
わたしたちは生者と死者との連帯関係にあります。故人が天国に入るためにその霊魂があらゆる罪の汚れから清められ、神のみもとで永遠の幸福にあずかることができるように祈ることによって死者を助けるだけでなく、死者がわたしたちのために執り成しをしてくださることを信じるがゆえに、教会はキリスト教の初期時代から、死者の記念を深い敬愛の心をもって尊び、死者のための祈願をもささげてきました。
死は「終わり」ではなく、天国での新しい命を得る時です。 そして、そういった天国にいる方に思いをはせると同時に、今地上に生きている私たちが、自分の命について考えることも大切です。死は新たな人生の始まりであり、目的である天国への旅立ちであることを信じているからこそ、わたしたちは、人の死を素直に見つめ、悲しみの中にも安らぎを覚えるのです。
キリストは『わたしは復活であり、いのちである。わたしを信じる者はたとえ死んでも生きる』と教えられました。別離の悲しみのうちにもわたしたちは、このキリストのことばに慰めと希望を見いだします。
(カトリック儀式書「葬儀」・カトリック教会のカテキズム,953, 958:カトリック中央協議会;2002)
では、次にメキシコ編「死者の日」ついてご紹介します。
日本からの観光ツアーも企画され、世界的にも注目されているメキシコの伝統的な文化・風習です。メキシコは国民の約7割がカトリックです。(外務省メキシコ合衆国基礎データ 2020年 INEGI:国立統計地理情報院より)
この日は、先祖や故人の魂が戻ってくると考えられ、一年に一度先祖に会える日として盛大に祝われます。明るく楽しい話と雰囲気で喜んで死者を迎え入れ、そして家族の絆を深め感謝することが目的です。国の祝日の為、学校や職場もほとんどの人が休みになります。2008年に「死者に捧げる先住民族の祭礼」としてユネスコ無形文化遺産に登録され、2017年には「リメンバー・ミー」というピクサー映画にもなりました。
シャレコウベの砂糖菓子。「死者の日」が近づくと、メキシコ全土の露店で売り出されます。額に貼ったテープに名前を入れ、親しい人の間で贈り合うことも。日本では気味が悪いイメージですが、メキシコの骸骨は極彩色に彩られ、華やかで楽しげ。メキシコでは死んでも楽しい世界が待っていると考えるから、みんな笑っているのです。
そして街はオレンジ色に彩られます。それは中米を原産地の一つとするマリーゴールドの花が街中にあふれるため。無数の花びらには太陽の色と熱を込めていると信じられ、「死者を導く役割」があり、祭壇からお墓までの道に花弁をまいて、道に迷わないように魂を安住の場所へ導きます。広場やショッピングモール、レストランやお店にも趣向を凝らした祭壇が、そして家庭でも大なり小なり祭壇をこしらえ、その前には山のような供え物が置かれます。「お供えという行為は、祖先を思い出すだけでなく、家族の過去、文化、伝統とつながることでもある」(メキシコ史研究者アルフォンソ・ガルドゥーニョ)
現世へ戻ってきた死者が長旅による喉の渇きをいやすための水。死者の魂の行き帰りの道を照らすための光、信仰と希望を意味するろうそくの灯。故人の思い出の写真、生前好きだった食べ物や飲み物など、子どもの場合はおもちゃも供え、戻ってきた魂を歓迎します。死者の魂はその匂いを楽しみ、生きる人々と再会できる喜びを共有するとされています。カラフルな切り紙の旗はメキシコの伝統的な飾りで、死者の日を祝う喜びを表します。木の樹脂で作られるお香を焚き、その煙に賛美と祈りをのせて、塩も使い、祭壇の周囲を清め、死者の魂が安全に戻ってこられるよう場を浄化します。
死者の日の晩餐には故人の席も用意して、亡くなった家族の魂が一緒に食事をします。そこに欠かせないのが「死者のパン」です。
夜は、日中に掃除して飾り付け、いろいろな花(子どもの魂のために白い花、大人の魂のためにはマリーゴールド、真っ赤なケイトウ⦅これも死者の花⦆、キク類など)で献花された共同墓地に集い、沢山の太いろうそくを灯し、演奏したり歌ったり、料理を食べたり…。夜明けまで亡くなった先祖について静かに語りあう家族、お酒好きだった故人なら、大いに飲んで盛り上がることも。
メキシコの死者の日は、故人を思い出し、祈ることに加え、先祖の魂が戻ってくるという習慣が、世界の他の国々と異なり、お盆を過ごす日本に似ているとされています。
生は死によって支えられていること、生死を超えたつながりの中に生があるという現実を忘れないようにしたいものです。
<参考資料>
・メキシコ「死者の日」とお盆 死とともにある生=吉田敦彦 毎日新聞2021/8/20
・材料は骨ではありません メキシコの「ガイコツ」菓子 日経新聞2014/2/9
・在日メキシコ大使館HP
・一般社団法人ラテンアメリカ協会HP
・スペインプレスHP
・メキシコ国家人権委員会(CNDH)HP
・NHKラジオスペイン語講座 他
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