9月21日は、中秋の名月でした。夜そして早朝に、東と西それぞれの方向に満月を見ることができました。空を眺めながら、ある絵本を思い出しました。
それは、昨年のクリスマスに亡くなられた安野光雅さんの『天動説の絵本-てんがうごいていたころのはなし-』という作品です。
この絵本は、かつて人々が世界をどのようなものと考えていたのか、そのことをたいへん緻密で美しい絵によって描いています。小学校中級から大人までが対象とされていますが、最近読んだときには、今だからわかる内容だと感じました。
この絵本は、次のように始まります。
「小さな国がありました。
人びとは太陽の下でくらしていました。
森にはいって、けものを追う人もいました。
海にでて、さかなをとる人もいました。
たねをまいて、ムギをそだてる人もいました。
人びとは、しずんでゆく太陽にむかっていのりました。
日でりがつづいたり、
じしんがおこったり、
おそろしい病気がはやったりしませんよう、
にんげんの力では、どうにもならないことを、
人びとは天の神さまにおねがいしたのです。」
かつての人びとは、神の創造をはなれて物事を見ることがなかったのかもしれません。
そして、続きます。
「夜の空には月がのぼりました。
まんまるになったかとおもうと、夜ごとにそれはかけていって、
しばらくみえなくなることもあります。
どうして月は、大きくなったり、小さくなったりするのか。
どこからきて、どこへかえるのか、どうしてもわかりませんでした。
どこまでもどこまでもあるいてゆくと、海にでるということは
わかっていました。その海の、もっとむこうには、なにがあるのでしょうか。
そこは、かんがえるだけでもおそろしい地のはてです。
海の水はきっと滝のようにながれおちているにちがいないのです。」
このあとには、今では迷信とされている占星術や魔法使い、錬金術、さらには、ペストの流行や大航海時代、地動説を支持した天文学者と教会の対立についても書かれています。地球は丸く、太陽の周りを回っていることが知られるようになるまでに、多くの人びとの不安や悲しみ、苦悩があったことが伝わってきます。
冒険家の船出によって、この絵本は終わります。
「もし西へ西へとすすんで東の国へゆき、
もっとすすんでもとのところへかえってこれたとしたらどうでしょう。
それは、大地がまるいというなによりのしょうこです。」
「もし、天が動くのではなくて、地球のほうが動くのだったら、
それは天と地がひっくりかえるほどの大さわぎです。
それまでかんがえていたことが、ずいぶんまちがっていたことになるのです。
わたしたちの大地がまわる………そんなことがあって、いいのでしょうか。」
「ともかく、ぼうけん家の船は出発しました。
西へ西へとすすんで、東からかえってくる。
ほんとうにそんなことができるのでしょうか。」
「人びとは天にむかっていのりました。
わたしの父が、無事にかえってきますように。
わたしの兄が、無事にかえってきますように。
わたしの子が、無事にかえってきますように。
地のはてまでいって、地獄の底におちたりしませんよう。
どうか、おまもりください。
神さま!!」